SFだと思っていたアポロ計画
昔、「アポロ13」という映画を見たことがある。
人類史上3度目の有人月面着陸を目指して地球を出発した3人乗りの宇宙飛行士が、
月に向かう途中で機体の爆発事故を起こし、
月面着陸はおろか地球への帰還も危ぶまれてしまう。
しかし、ヒューストンの管制室との連携によって、奇跡的な生存を遂げるというあらすじである。
月に向かう有人宇宙船が、宇宙で遭難する。最初に見たとき、これはSFに違いないと思っていた。
当時は、スペースシャトル全盛期。ISS(国際宇宙ステーション)の建設も始まっていたが、地球軌道上での話である。
月に人類を送り込み、月面を歩行させるなんて、夢のような話は一体いつになったらできるのだろう。
そう思いを馳せていた。
しかし、2回目以降に見たときに、強い違和感を感じた。冒頭にアポロ11号の宇宙飛行士が人類史上初の月面着陸を成し遂げる瞬間がテレビ中継され、それを大勢で見るシーンがあるのだが、そこにあったのは液晶テレビではなく、ブラウン管テレビだったのだ。
コンピュータはあるにしても途方もない大きさだったし、何より誰一人携帯電話を持っていなかった。
SFにしては細部まで作りこまれていないなあと思っていたとき、親から衝撃の事実を聞かされた。
何と、アポロ計画は本当にあった史実であったのだ。
12人の宇宙飛行士が月面を歩行し、無事に帰還したのである。
この時の衝撃を忘れることはできない。夜空に輝く月。どれだけ手を伸ばしても、届かない場所に、30年以上も前に人類は到達していたのだ。
中世ヨーロッパ人が、古代ローマ時代の水道橋を見て、こんなものを人間が作れるわけがないと思うのと同時に、30年以上前に、人類を月に送り込むことができたなんて、私は信じることが出来なかった。
それから何度もアポロ計画の映像を見た。
発射台から打ち上がるサターンV。機体に描かれたUSAという文字が、当時の米国のとてつもない国力を示しているように感じた。
月軌道上で司令船と月着陸船が分離し、月着陸船のみが月面着陸をした。せっかく月まで行ったのに、たった一人で司令船で待っているなんて可愛そうだなと思った。
そして、地球を出発した時点で全長100メートル以上あったのに、月から帰還した時には小さな司令船だけになっており、純粋にもったいないなと思った。(これがアポロ計画が長続きしなかった原因の一つなのだが。)
考えてみれば、人類史上初の月面着陸の成功までの科学技術の進化は、
驚異的であったと言える。
1912年。この年のトップニュースはおそらくタイタニックの沈没であるだろう。
世界最大の豪華客船が、ニューヨークに向かう途中の大西洋で遭難し、1500名以上が亡くなるという大惨事が起こった。
それから、58年後。同じく4月。
アポロ13号は、月に向かう途中の、宇宙空間で遭難した。
予定ではタイタニックは約1週間で大西洋を横断する予定であった。
一方、
アポロ13号は、4日で月まで到達する予定であった。
船で大西洋を横断するより、宇宙船で月まで行くほうが早い。
この時点で、驚きは隠せない。
いつの日か、月面を歩行してみたい。そんな夢を、幼い頃見ていた。